第356章

どうせ彼は表と裏、その両方の世界に顔が利く男だ。小娘一人を始末するなど、彼にとっては造作もないことだろう。

村野郁紀は、言いようのない無力感に襲われた。

頭を下げるのは死ぬほど嫌だ。だが……。

今住んでいる城北のアパートは、鍵だってありふれた安物だ。もし彼らが本気で危害を加えようとすれば、防ぐ手立てなど皆無に等しい。

「それとも、俺様と一晩付き合うか? そうすりゃ全部水に流してやるよ」

小太りの男が、またしても彼女の体に馴れ馴れしく触れようとする。

周囲の人間はただ見ているだけで、誰一人として止めに入ろうとはしない。

村野郁紀の背中はすでに冷たい壁に触れており、これ以上後退する...

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